ポリウレタン混紡製品ってどうなるの?怖がりすぎる必要はないけれど、それなりに覚悟をもって、割り切りが必要だと思う。
どーもナル男です。先日、とある媒体でポリウレタン混紡デニムについての劣化に関する質問に対して
「ポリウレタン混のストレッチデニムより、天然素材の綿100デニムの方が伸びや経年変化は圧倒的に早い」という趣旨の答えがなされていて
ちょっとその説明はいろいろ不足しているし、語弊が大きすぎると思ったので、綿100対ポリウレタン混紡(以下ウレタン混と省略)について私見を述べたいと思います。
少し長いブログになりますが,今回は目次・ページジャンプを用意しましたので、活用の上おつきあい下さい。
目次
2.ウレタン混の劣化について「加水分解」と「伸び」は分けて考えよう
6.綿は伸びても縮む
綿100対ウレタン混論争?
「ウレタン混は絶対に買わない」という方も多く、被害者の会なるサイトまであり、「ウレタン混は絶対悪」という主張がいたるところでなされています。彼らとはおそらく議論と呼べるものには発展しないので論争にならないと思うのです。
また年配の方(うちの両親なんかもそうです)には綿100%信仰のようなものがあります。これは昔はウレタン混やポリエステル混などをはじめとした化繊混紡モノには粗悪品が多く、天然素材100%の綿100%こそ至高、という考えが生まれたのだと思います。
一方でウレタン混大好き!という人間は存在しないのではないか?と思います。
もしいるとすれば、それは「ストレッチって動きやすくて大好き!」という意味であり、別にポリウレタンが好きなわけではないと思います。
だから綿100対ウレタン混論争なんてものは実は存在せず,「ウレタン混は絶対に嫌だ」という人と「ストレッチのためには仕方がない」という人が存在し、互いに相容れない、という図式なのです。
ナル男は「できればウレタン混でないものが良いけど、ウレタン混も普通に買う」というなんとも煮え切らないポリシーです。
何なんだよ、と思われるかもしれませんが、これは色々知ったうえでの割り切り方なのです。
ウレタン混とうまく付き合うには、知識と心構え、割り切り方が重要です。
知識がないと、ストレッチ入りで着やすく、大好き!と思っていたアイテムがある日劣化で突然のお別れをしなくてはならず「騙された!」とウレタン混を毛嫌いする、ということになりかねません。
ウレタン混の劣化について「加水分解」と「伸び」は分けて考えよう
まずウレタン混の劣化について、冒頭でお話しした媒体の発信者は、「ポリウレタンの加水分解」と「ウレタン混を使ったストレッチ製品の伸び」を明確に区別しておらず、半ば混同した形で説明しています。
経年変化というのが加水分解のことを指しているのか、伸びてしまうことを指しているのかわからないのです。
これは意図的なものなのか、本当に混同しているのか、発信者の真意はわからないのですが、ナル男はこの部分に一番疑念を感じます。
ファッション初心者はそんなことわからないのですから、詳しく丁寧に説明する必要があるのです。「そんな小難しいことしったこっちゃねえよ!」というのは、読者側が決めることなのではないでしょうか?
ウレタン混の「加水分解」とは?
ウレタン混がなぜ憎悪されるかというと、この加水分解という劣化が避けては通れない素材だからです。加水分解という現象については、ググって貰えばわかりますが、簡単に言うとポリウレタン素材は生まれた瞬間から水分と反応し、徐々に分解され、最終的には溶けてしまうというものです。
これは空気中の水分であっても同じことで、水洗いをしたことがないスニーカーなどもある日突然ボロボロに崩れ落ちたりします。
これが結構ショッキングな画なので「ウレタン混嫌だ!」という嫌悪感に繋がるのです。
これがクリーニング等をきっかけにして発生することも多く、客からのクレームが相次ぐためクリーニング店が警鐘を鳴らしていることが多いです。クリーニング店を多く利用していることがあればわかると思いますが、ポリウレタン製品に対する警鐘ポスターが貼ってあったり、ポリウレタン製品のクリーニングお断り、などを掲げている店もあります
そして、この加水分解という劣化はポリウレタンを使用していない綿100%素材では絶対に発生しません。なので、この加水分解という劣化に限って言えば「天然素材である綿100%のほうが劣化は早いですよ」などということは絶対にありえ
ません。
※ポリウレタンとポリエステルは全く違う素材です。加水分解はポリウレタンで起こる現象ですので両者を混同しないようにしてください。
ウレタン混などストレッチ製品の「伸び」という劣化
なぜそんな劣化現象を持つウレタン混が使われるのか?といえば、ストレッチ(伸縮性)という性質を与えるためです。
簡単に言うとゴムって、普通の糸よりもはるかに伸びて、また元に戻りますよね?ポリウレタンを混紡すると、あれを伸縮性の乏しい綿などの素材にも与えることが出来るのです。
ストレッチ入りのアイテムは伸縮性があるから着やすく、動きやすいですよね?ここにポリウレタンを混紡するメリットが有るのです。
そして輪ゴムとかで実験してもらえば分かるのですが、伸ばしても伸ばしても元通りになる、なんてことはないですよね?徐々にではありますが、ゴムが伸びて輪が大きくなってしまうはずです。まあ何十回、何百回と繰り返して、の話ですが。
ウレタン混デニムなどは優れたキックバック(元に戻る)性質を持ち合わせているものの、やはりこの「伸び」を避けることは出来ません。
そして、この「伸び」という劣化は綿100%素材であっても起きます。
綿100とウレタン混はどっちが早く伸びる?
ではどちらが早くこの「伸び」が生じるのでしょうか?論争が起きるとすれば、これなのではないかと思います。冒頭の発信者も最初は加水分解の話をしていたのに、いつのまにかこの「伸び」という劣化にフォーカスして「経年変化」を語り始めています。
そして「天然素材だから、伸びはウレタン混より綿100の方が早い」と主張しているのです。(この論理展開はお世辞にも褒められたことではありません、少なくともロジカルなファッション指南を標榜しているのであれば)
このどちらが早く伸びるか?について、ナル男は検証実験をしたわけでもないので、これを一概に断じる事はできません。というかなぜ天然素材だから伸びが早いと断じる事ができるのでしょうか?きちんと検証データ等があるのでしょうか。
「天然素材だから」で一瞬納得してしまいそうになりますが、それは違うのではないでしょうか。例えば蜘蛛の糸なんて天然素材ですが、鋼鉄よりはるかに強度があると言われるのですから。
もしかしたら、同じ条件下で、例えば同じ面積で機械を使って伸ばす→戻すという実験を繰り返すと、綿100素材がウレタン混に負けるのかもしれません。文献を探してみますが今のところ見つかっていません。
ただ経験則上「薄く、かつストレッチが効いているものの方が伸びは早い」といえるではないかとは思っています。
これはなぜかというと、そのようなモノのほうがより「伸びて生地に負担が掛かっている」からです。ストレッチの入っていない製品は伸びるがゆえによりタイトなものでも着れてしまいます。それが似合っているかどうかはまた別の話ですが、綿100ではとても着れないようなモノまで着れてしまいます。それだけ伸びているからです。
伸びているということはそれだけテンション(張り、負担)が掛かっているということであり、先ほどのゴムのように元に戻らなくなるのは早いはずです。
ゴムをちょっとだけ伸ばすのと、切れそうなくらい引っ張るのではどちらが劣化が早いか想像していただければわかると思います。
以上から、どちらの伸びが早いか?は素材レベルで語るには適しません。
どれだけ生地に負担が掛かっているか?という着る人とモノとの関係も大いに影響するからです。
綿は伸びても縮む
一方で綿には、伸びると同時に縮む、という性質があります。
Tシャツやデニムを買うときに店員さんから「洗うと縮みますよ」なんて言われた経験ありますよね?
綿は水を吸い、乾くとと縮むのです。最近はこのことから起こるサイズのギャップを防ぐために製品洗い加工(工場段階ですでに洗っており、縮みによるギャップを少なくするためのもの)が施されていたりします。
「ワンウォッシュ」なんて言いますよね。今ほとんどデニムはこれが施されているのでは?
だから、着用によって伸びても洗濯すると縮みます。
着用→伸びる→洗濯→縮む→着用→伸びる→洗濯→縮む、を繰り返すわけです。
そしてやがては伸びの方が勝り、生地がクタッとしてダレたような質感になっていくのです。新品のピン!と張ったような状態にはもはや洗濯しても戻ることはありません。
いわば生地の老化現象ですね。
なお「縮み」は、綿100%でなくても、ポリウレタンが混紡された綿でも起こります。
スポンサーリンク
ストレッチデニムは最後どうなるの?
前述のように「伸び」という劣化については、生地がクタッとなるのは綿100であっても、ウレタン混でも避けることは出来ません。
そしてそれが早いか遅いかは、どちからというと素材レベルではなく、着用者がどれだけテンションを掛けるか(要はどれだけタイトなものを無理して着るか)という話だと思います。
太いデニムであれば劣化が起きないというわけではないですけどね。着用していれば何らかの負担が生地にはかかっていますので。
この「伸び」は捉えようによっては「味」です。新品のピン!と張ったような素材感よりも着古したクタッとした生地が好きだという価値観は確実に存在します。
純粋にこれを「劣化」と捉えるよりも「長く付き合ってきた証拠」として愛おしむことも可能なのではないかと思います。自分の身体にフィットしてきたと考えることも出来ます。
ただこれと異なり、ウレタン混のみに生じる加水分解という経年変化は明確に「劣化」です。
ウレタン混デニムが最終的にどうなるのか?私にもわかりません。
ウレタン混デニムはせいぜい3%~10%程度(おそらく一番多いのが5%)ポリウレタンを混ぜているに過ぎず、スニーカーのソールの崩壊のような唐突な劣化が訪れるのではなく、徐々に徐々に劣化していくからです。
多くの人はこの劣化途中でストレッチデニムを手放し、捨てるので最終的にどうなるのか?を見届ける人は少ないのではないでしょうか?
最近の多くのポリウレタン混紡アイテムは、コーティングではなく、糸に使われているので、ボロボロ落ちてくるとか、ベタベタになるとかいったことが唐突に起きるわけではないとは思いますが、なんともいえません。
こういうことはメーカー側が説明すべきことだと思うんですけどね。
消費者としては、ポリウレタンによる劣化が起こる、という事実だけが突きつけられて、正しい選択をしろと言われても、疑心暗鬼になるしかありません。
ウレタン混製品とどう付き合っていけば良いのか?
加水分解が起こると、もう元に戻すことは不可能です。
そしてこれはいつか必ず生じるものであり、完全に防ぐことは不可能です。
だからウレタン混製品はいつか必ずサヨウナラが訪れます。
ウレタン混製品に「一生モノ」や「ヴィンテージモノ」はありえません。
「3年ほどでダメになる」というのは、断言出来るわけではないですし、それは相当運が悪い例だとは思いますが、早ければそれくらいで着れなくなるという覚悟、割り切りが心構えとしては必要です。
ストレッチ製品には着心地というメリットがきちんとあります。
デニムではありませんが、先日ナル男が購入したラウンジリザードのヘリンボーン2WAYストレッチにもポリウレタンが混紡されています。
その着心地は、綿100ではおそらく実現出来ない(出来たとしてももっと高額になるはず)着用感です。
ちょっと気持ち悪さもあるんですが笑
しかしナル男は、同時にこれをずっと着続けられるとは思っていません。
(なのでまた買えるように是が非でも定番化して欲しいのですが…。)
ウレタン混製品はきちんとメリットとデメリットを把握して購入することが大切です。
そう言ってもナル男は、ウレタン混である、なしに関わらず、そのアイテムを3年後、5年後も1軍で着用しているかどうか?、という判断に自信がありません。
人は変わっていくものなので…、体型、流行、そして何よりも自分自身の気分がどんなものであるのか想像するのは簡単ではありません。
もしかしたらそのアイテムをめちゃくちゃ好きでいるかも知れないし、さっさとオークションで売ってしまっているかもしれません。
後悔しないように常にこれらを考えるようにしましょう、難しいことはありません。
①高額商品(人によって何が高額かは異なります)はウレタン混は避ける。
いつかは必ずダメになるものなのですから、高いと感じるものをウレタン混で買うのはできるだけ避けるべきでしょう。「使い捨て」という割り切りがウレタン混と付き合うコツです。
そもそも論として、7万とか8万とかする高額なアウターなどをウレタン混で作る、という神経がナル男にはよくわからないのですが…。
②オークション等で中古ウレタン混を買わない
今期発売したばかりであるとか、過去1年間くらいの物ならともかく、数年前のウレタン混製品はすでに加水分解が始まっている恐れがあります。それを説明しているならともかく、もうだめになりそうだから体よく売りつけようとしている可能性もあります。
そうでなくても、発売後数年経っているウレタン混製品は買ってすぐに加水分解が起こる可能性は誰にも否定出来ないのですから、わざわざそんなギャンブルをする必要はありません。ネットで調べてもそのアイテムの素材がわからない時は、製品表示ですぐに分かることなので「製品表示記載の素材を教えて下さい」「ウレタン混ですか?」と聞いてみるのも良いでしょう。
確信犯的な売り手は嫌がる質問なので応えてくれないかもしれませんが、そんな時はきっぱり諦めましょう。
③ウレタンでコーティングされたアイテムは絶対避けるべき
普通の生地と変化を付けるためにウレタンでコーティングされたアイテムがあります。「コーティングデニム」などがそうです。
普通の生地にはない光沢感があるのですが、これは混紡などではなく、ウレタンそのもので覆っているのですから、ウレタンのデメリットをモロに受けます。
わざわざ買うようなものではありません。艶も嘘っぽくて、あまり上品とはいえません。
④洗濯、アイロン掛けをなるべくしない
ウレタン混は、水にも熱にも弱いため、洗濯もアイロンがけも綿100に比べて控えめにする必要があります。
スラックスなどどうしてもアイロン掛けをする必要があるアイテムは、直接アイロンをかけると特有の「変な艶」がアイロン掛けした部分に出ますので「あて布」をしてください。
前述のウレタンコーティングがされたアイテムはアイロンがけすると剥がれ落ちる可能性があるので絶対に避けなければなりません。
このような扱いにくさからも③は守るべきです。
ブランドやメーカー側に望むこと
ポリウレタン混紡のストレッチ製品がこんなに量産されるようになったのは「タイトな服」が当たり前のように望まれるようになったからにほかなりません。
ナル男は安物ほどポリウレタンが混紡されていて、あーウレタン混だと安く作れるんだなーと思っていましたが、実はあまり関係ないそうです(モノによるそうです)。
それよりもウレタン混紡でストレッチが効くようになると、多くの人が着用できるので(まあ伸びるのでね)、サイズ展開を減らせたり、より多くの人に買ってもらえて在庫を抱えるリスクの減るのです。
ストレッチのメリットを十分考慮したうえで、それでも、ウレタンを混紡するというのは、「いつか必ずダメになる服を作る」ということと同義ですので安易にしてほしくはないというのがナル男の願いです。
もし「そうじゃない」とか「実は今は劣化はほとんどしないんですよ」ということであれば、ブランドやメーカー側がきちんとそれを説明するべきではないのでしょうか?
それがないからポリウレタン=絶対悪、のような主張が生まれてしまうわけです。
ナル男はオークション等を使ってどんどん服を回転させていくというスタイルなのですが、やはり何年も着るという服も同時にありますし、何よりも「洋服なんて使い捨てですから」と消費者が割り切るならともかくブランドやメーカーが助長していくのはどうなのかな?と思わなくもないです。
それってあえて数年で故障するタイマーを製品に仕込んで、買い替え需要を惹起するようなものじゃないですか?
せめてデニムにしたらストレッチの効いたモノとは別に、綿100のモノを出して、消費者に選ばせて欲しいと思うのです。
ストレッチの効いたスキニーデニムと同時に、綿100のパンツも多く出しているLAD MUSICIANなどは好感が持てます。
アパレル店員さんも「ストレッチ効いていて本当に着やすいですよね~」とかメリットを説明するだけじゃなくて、それなりにデメリットも説明するべきだとは思います。
もちろんこれは電化製品を「必ず故障します」と言って売るようなものなので本当に難しい。でも、家に帰ってからポリウレタンについてネット検索して、極端な意見を見てしまって「騙された!」となるよりは信頼が構築できると思うのですが、まあなかなか難しいでしょうね。
長くなってしまいましたが、冒頭お伝えしたようにウレタン混のメリットとデメリッ トをよくわかったうえで、色々割り切ることが必要なんじゃないかと思います。
ウレタン製品を買うな、なんて言いません。でもデメリットも知ったうえで、その着心地を楽しんでくださいね。
スポンサーリンク
〈今週のお題〉愛用しているもの 「デニムパンツ」