「ファッション‼︎」というド直球ファッションお仕事漫画に見せかけて、実はアパレル業界の闇より人間の闇を描いていて面白いので見て欲しい
ファッション、アパレル業界の裏側を垣間見れる漫画だと思ったら、
人間の怖さについて見せつけられている…。
いや1巻の表紙も何か、ファッションについて、モードについて、ド直球で描いた作品っぽく感じるじゃないですか？
何の話かと言うと、現在文春オンラインにて連載中のはるな檸檬氏の漫画「ファッション‼︎」についてです。
※文春オンラインでは、現在1話から3話、そして14話から最新17話まで見ることが出来ます（8月26日現在）。
4話から13話はオンラインの無料掲載は終了で、単行本で補完しないといけません。
現状序盤の山場であろう東コレ編が丸々抜けている感じなので、出来れば単行本で読んで欲しいところですが、そこは脳内補完でもいけるかもしれません。
今からでも、無料でも十分楽しめるかと思います。
文春オンラインは、世の中のありとあらゆるスキャンダルを扱っているので、なにかの話題でふとこの漫画のことも目にしたことがあったり、なかったりするかもしれません。
ふとチラ見して、あーファッション業界について描いてる漫画ね？と思っていると全然違うので驚かされます。
こう、服好きなら心のどこかで思っている「お前ら騙されてんだよ！ファッション業界って実は裏側ではこんなふうになってんだよ！」的なお説教じみた話ではないので。
あんまり1ファッションユーザーとしては関係の無い話だったり、まあそうだろうね、という話がメインになるので、そこらへんはストレスフリーで読めます。
このお話はファッションを愛する主人公・新道開（かい）と、開が偶然出会ったまだ専門学生の駆け出しデザイナー・ジャンの2人を中心に展開していきます。
https://bunshun.jp/articles/-/44066 #1《後編》より
開の妻・新道桜子は、物語と読者との中間的な立ち位置。
桜子はファッションについて全くの素人であり、桜子に開が説明する形で専門用語の解説が行われたり。
またジャンの持つ謎、違和感について、距離を置いた立ち位置だからこそ気付いたりもします。
物語が当初描くのは、才能とやる気はあっても、お金が無いとどうしようもならないファッション業界への問題提起がメイン。
そこをどうにか打破し（実は主人公がある過去を持つスーパーマンだからこそ成り立つのですが）、東京コレクションデビューを成功させます。
そして次はジャンのブランド・AKUOHS（アクオーズ）のファースト・シーズンを成功させようとするのですが…。
悲喜こもごもありつつ、規模はどうあれ最終的にはブランド成功というゴールを目指していく「お仕事サクセスストーリー」系かなと一瞬思わされます。
ただ、実はどうやらそうではないのです…。
このジャンくん、どうもおかしい。
どうにも周囲の人間、ジャンくんを気に入り、ジャンくんのためを思い、行動してくれる人たちを単なる駒のようにしか考えていない様子。
サイコパス、という言葉で括ってしまうのは抵抗もあるのですが…。
要するに、誰しも一度は出会ったことがあるであろう
「自分の利益しか考えていない」
「自分の利益のためなら他人をとことん利用することをいとわない」
という類の、その中でも、超・たちの悪いヤツなのです。
人の善意を徹底的に搾取するのはもちろん。
何が一番たち悪いかって、物語の中で、ジャンくんの本性に気付いている人は僅か、というところ。
皆、そうとは知らずにジャンくんのために奔走してしまう…。
特に主人公は、私が計算する限り既に数百万円分の労働をタダでやってしまっています。
主人公が純粋に良い人か？と言うとそうでも無いのです。
何か業界への提言が上から目線だし。
東コレに出演者をタダで出させるために上手く丸め込んだり、受注会に来てくれたお客さんへのセールストークだったりが…
口から出任せではないものの、どうにも都合よくストーリー展開する感じで「こういう店員とか営業マンいるわー」となるそれだし。
そんな有能っぷりを見せつけつつも、ジャンくんの違和感には全く気付かないあたりが…
もう！何やってんだよ！というもどかしさと、歯がゆさがクセになります。
https://bunshun.jp/articles/-/53287 #14《前編》より
いやーでも人間ってそういうときあるよね、分かっていても、人を信じたいって思って尽くしちゃうこと…。
いつか分かってくれるんじゃないかと、違和感に気付かないフリをしたり…。
この主人公は、そもそも気付いていないんだけど。
ジャンくんが裏切るのは、既に確定しているであろう描かれ方なので、一体どう裏切るのか？
そしてその時主人公は…？という興味もありますし、一体どの範囲まで人を巻き込んでから爆発するか？という怖いもの見たさにゾクゾクする感じがします。
あれ？これ何の漫画だったっけ？と。
もちろん色んなアパレル用語や仕組み、そして何より問題だらけの業界事情を学べたりはするのですが（特にファッション雑誌編集長の話はリアリティがあって面白い）、そこだけじゃない。
念のため、現在進行系でそういう人が側にいて、苦しめられている人は見ないほうが良いです。
嫌な気持ちになってしまうと思うので。
でも、人はこういった漫画や小説などのフィクションに接することにより、多様性に満ちた人生を送れるんですよね。
自分の人生じゃなくて良かった…。 という悪夢から目覚めたときに感じるようなこの感覚は、
まさにこの作品がそういった欲求を満たしてくれていると言って良いのではないでしょうか。
うわ、こういうやついるわーって皆に思って欲しいので、是非読んで欲しいファッション漫画ですね。
